在宅医療

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 古代メソポタミアの時代から「不老不死」は人間の憧れでした。長生きをしたいですか?と問われてもピンとこない世代の方でも、「アンチエイジング」と言われると興味があるかもしれません。残念ながら現代の医学でも不老不死は実現しておらず、日本では昨年約126万人の方がお亡くなりになっております。高齢化によってこの死亡者数は年々増加をしており、平成14年(西暦2002年)には96万人だった年間の死亡者数がこの10年間で126万人まで達し、ピークの2038年には170万人にまで膨れ上がると予測されております。

 

 

 この126万人もの方々がどこでお亡くなりになっているかご存知でしょうか?答えは皆様の予想通り、病院です。全体の85%の方が、病院あるいは診療所でお亡くなりになりました。一方で、自宅で亡くなった方は全体の12.6%(約16万人)、老人ホームや介護施設などで亡くなった方は4.8%(約6万人)でした。この数値、皆様はどう感じられるでしょうか。

 

 

 多くの方が意外に思われるのですが、病院や診療所で亡くなる方が自宅などで亡くなる方より多くなったのは、昭和50年(西暦1975年)からです。それまでは自宅で最期を迎えることが普通だったのですが、戦後一貫して病院での死亡が増えて自宅での死亡が減少していったことから、いつの間にか自宅で亡くなることが当たり前でないどころか「あってはならないこと」のように思われるようになってしまいました。「家で家族を看取りたいけど、亡くなったら警察が来るんでしょ?」と仰る方も、一生懸命看病した家族に対して「入院もさせずに死なせた」と心ない言葉を浴びせる‘親戚’も、死ぬときは病院と信じているからこそでしょう。

 

 

 内閣府の調査で多くの国民が「最期に療養する場所」として病院を希望しています。しかし、その調査で病院を選ばなかった率が最も高かったのは医師や看護師でした。介護施設での最期を希望した割合が最も高かったのが介護施設職員であったことと全く対照的に、病院で働いている医師や看護師は自分たちはここで最期を迎えたくないと思っているのです。他の職業で考えると、自分たちはここで食事をしたいと思わないシェフがいるレストランに、そうとは知らない皆が行きたがっているようなものです。

 

 

 在宅療養を希望されない方の理由は、何かあった時に心配、家族に負担(迷惑)がかかる、というものでした。そのために在宅医療があり、訪問看護、ホームヘルパー、福祉用具貸与などのシステムがあります。当クリニックも在宅患者さんに対しては24時間365日対応しておりますし、連携している訪問看護ステーションも24時間365日対応です。もちろん、ご家族などの負担がないわけではありません。愛する方が弱っていく姿を見ているだけでも大変なことです。しかし、看取りまで行われた方の本当に多くがやって良かったと仰り、ある方は「確かに苦労だったが、人類がずっとやってきたことだし、苦労のない人生なんてない」と振り返っておられました。

 

 

在宅療養のご相談を承っております。小児から高齢者の終末期まで、暮らしている「ファミリー」の全員を支える勝川ファミリークリニックです。

文責:下島卓弥