夕暮れ時のクリニックの待合室。ウェ~ン、ウェ~ンとなき叫ぶ7ヶ月の愛子(仮名)ちゃんが入ってきました。つい先ほど、電話で“抱っこしても、オムツを替えても、ミルクをあげても泣き止まないのです。どうしましょう?”と相談があり、とにかく受診していただくようにお願いしたのです。ひきつった顔のママから赤ちゃんを受け取り“あら、あらどうしたの愛子ちゃん? ”一人の看護師が抱っこしたとたんに笑顔に変わり泣き止んだではありませんか。いや、何が起こっていたのでしょう?何かの出来事で、泣き始めた愛子ちゃん。その泣き声に不安になったママの顔がひきつってしまったのでしょう。ママの心配した顔を見て、そしてママの不安な心が伝わって、“いつもと違うぞ、どうなってるの?ママどうしたの?”と泣いていたに違いありません。いつもと違うママの姿に、さらに泣き叫んでいた愛子ちゃんでした。
そうです、子供は笑ったお母さんが大好きです。お母さんの笑顔の中に自分への信頼、大きな愛を感じるのです。お母さんの腕に抱かれ、暖かい微笑みに包まれることで安心を得るのです。あなたは大切な人、愛されているのですよということを心から感じさせてあげてください。愛されていることを感じることのできる子供は、人を愛することができます。人から愛されるとき、人は喜びを感じるものです。人を愛し、愛されることはとても大切なことです。
人は、目に見えない、大切なものを感じる力を持っています。特に子どもは並外れた能力をもっています。目に見えない大切なもの・・・。それが、“感じる心”だと思います。
私は愛されている、私は、大切な存在なんだ、と感じる事によって、人は安らぎを覚えます。子ども達は、毎日のお母さんとのふれ合いの中で、目には見えない大切なものを積み重ねていきます。思いっきり、抱きしめて、抱きしめて、最高の笑顔で接してください。それは、むずかしいことでは、ありません。目の前にいる子ども達はこんなにも素晴らしい宝物なのですから。抱きしめる、笑顔で接するという小さなことに大きな愛を込めることによって大切なものが生まれます。子ども達が小さな心の中に、いっぱいの愛を、いっぱいの笑顔をためて、いつかお隣のさびしい人に出会ったときそのささやかな素晴らしい笑顔を分けてあげる事ができたらどんなに素晴らしいでしょう。お母さんの笑顔が、子ども達に、そして、お隣の人へと広がるのです。
ただあるがままに笑って、だっこしてあげてください。それだけで子供はあなたの深い愛を感じてくれるはずです。そして不安感から泣いていた子供の顔に安らかな表情が戻ってくることが少なくないと思います。
文責:伴 彰子